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医療事故:東京医大病院で患者が大ヤケド、原因はレーザーメス? [医療・健康&がん関連]

レーザーメス.jpg今年の4月15日に「東京医科大学病院」(東京都 新宿区)5階の手術室で患者が大ヤケドを負う事故があったと、5月31日になってから報道されました。

産科・婦人科の女性医師がレーザーメスを使って女性患者(30代)の手術を行っていたところ、患者の体を覆(おお)うために掛けてあった手術用ドレープに着火。医師らスタッフが点滴に使用する生理食塩水などを使って消火し、消防署へ通報しました。全身麻酔下にあった女性は腕や足などに重傷のヤケドを負い、5月末現在も入院しているそうです。(※写真は事故の機器と関係ありません)。

[手術用ドレープ]
外科手術の際、感染を防止するために患者の体に掛ける布のことで、厳密には布ではなく不織布(ふしょくふ)製が多い。執刀する部分が穴状に開いている製品もある。「オイフ」「覆布(おいふ)」とも。

レーザーメスが出火の原因かどうかは、まだハッキリしていないのですが、手術室にはレーザーメス以外に火の気はなかったとのこと。新宿署は業務上過失傷害容疑で担当医から事情聴取するなど捜査中で、同病院は第三者による調査委員会を設けて、担当医の使い方が間違っていなかったか、レーザーメスに不具合がなかったかなど原因を調査するそうです。

また、同病院は東京都と厚生労働省の関東信越厚生局へ事故を報告し、「このような事態を招いて患者さんに大変申し訳ないと思っています。原因の調査を早急に進めるとともに、警察の捜査にも全面的に協力したい。調査結果が出た段階で経緯を公表する方向で準備を進める」とコメントしました。

レーザー治療装置は人工の光を熱に変換し、その熱の作用で切開、切除、凝固、止血、蒸散、破砕などができる医療機器。レーザーは性質の違いによって多くの種類があり、婦人科だけでなく一般の外科、眼科、皮膚科、整形外科、耳鼻咽喉科、美容整形外科、歯科など広く利用されています。

[主な医療用レーザーの種類と用途]
・気体レーザー
●炭酸ガス(CO2)レーザー:レーザーメス、ホクロやイボの気化蒸散など
●ヘリウムネオン(He-Ne)レーザー:アレルギー性鼻炎など粘膜疾患の治療、鍼(ツボ刺戟)、美容(血行や代謝の促進)など
●アルゴン(Ar)レーザー:眼底や組織の凝固、殺菌、殺がん(光化学的治療)、赤アザの治療など
・固体レーザー
●ルビー(Ruby)レーザー:黒アザ、老人性のシミ、ソバカスの治療など
●ヤグ(YAG)レーザー:椎間板ヘルニア、イビキ、鼻炎の治療、痔核の切除など
●ネオジウム・ヤグ(Nd-YAG)レーザー:血液の凝固、鍼(ツボ刺戟)、美容(血行や代謝の促進)など
●ホルミウム・ヤグレーザーレーザー(Ho:YAG):尿管や胆管の結石の破砕など
・その他
●半導体レーザー:傷痕、腫れ物、炎症、痛み、かゆみ、アレルギー性鼻炎の治療など
●ダイ(Dye=色素)レーザー:赤アザ、赤ら顏(毛細血管拡張症)の治療など

[レーザーメスの特徴]
●毛細血管でも熱効果によって固めてから切断できるので止血しやすい。
●止血しながら切開できるため、出血しやすく縫合の難しい組織の手術にも使える。
●手術中の出血が抑えられるので、医療者は患部が見やすく手術も進めやすい。
●切開によって破壊される組織層が薄いため、術後の回復が早く術後の痛みも少ない。
●熱で血管やリンパ管を固めながら殺菌するので、感染や転移の防止も期待できる。
●電気メスより切開がスムーズで、感電の恐れもない。

[レーザー光の注意点]
●直進性・平行性・高集光性・高出力性などがあり、反射や散乱しても特徴は変わらないので危険(実際の事故はレーザーが何かに反射または散乱して照射された例が多い)。
●照射すると皮膚ならヤケド、眼の場合は視力低下や視野狭窄、失明を引き起こす。
●レーザーの光路は目の高さを避け、腕時計やガラス器具など鏡面反射を起こす物体を光路の近くに置かないこと。
●レーザー光が予期しない方向へ飛ばないように、光路の終端には遮蔽物(不燃性で鏡面反射が起こらないもの)を置くこと。

マスコミ報道では「重傷だが、命に別状はない」とありますが、30代の女性が腕と足に大ヤケドをしたわけですから、痕(あと)も残りやすいし、その後の人生に大きく影響しますよね。ヤケドで「重症」とのことなので、表皮より深く範囲も広いのかもしれません。人体の痛みで最もつらいのが全身ヤケドだといいますから、皮膚移植の必要なほど広範囲だったら……。

この女性は婦人科の手術のために全身麻酔の状態だったので、自分の体に火がついても「熱い!」とは感じられず、「火を消して!」とも叫べなかった。私は胃がんと乳がんの手術の際、全身麻酔でしたが、患者は手術室で火事が起こるなんて想像もしないと思います。
だから、麻酔から覚めたら腕と足に大ヤケドを負っていたなんて、体の激痛だけでなく精神的なショックも非常に大きいでしょう。命が助かったから、それだけでも良かったじゃないの!と喜べるケースではありませんし、慰めにもなりません。

●東京医科大学病院
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/
産科・婦人科
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/sanfu/index.html

同病院は1015床の大規模施設で、「東京医科大学」が今年(2016年)で創立100周年を迎えるにあたり、記念事業として病院の改修工事を行うようです。450億円に上るとも言われる工事の受発注に絡み、ゼネコンとゴタゴタがあった模様…。

以前から医療事故に関して調べると、この病院の名が必ず出てくる重大な事件もありました。
・2002年10月~2004年12月に、第2外科の男性医師(東京医大出身、当時45歳)が担当した心臓弁膜症の患者の手術で、術後に相次いで4人が死亡。
・2001年以降の冠動脈バイパス手術と心臓弁膜症手術で患者死亡15例のうち12例に、この医師が関わっていたと判明。

●医療事故報道・1
http://plaza.rakuten.co.jp/genkoku/5000/
(「わたし大学病院を相手に医療裁判しました。」/運営:Genkokuさん)

もっと古いものでは以下の事故も…(※リンク先は同じ事件の内容)。
●「妻の子宮全摘、尿道損傷」教授同士が法廷闘争(「週刊ポスト」1999年7月16日号)
http://homepage3.nifty.com/medio/archives/kiji/post/990716.htm#top
●No.64「帝王切開後、患者の同意なく子宮と右卵巣を摘出。患者の夫である医師が子宮摘出に同意をした場合でも、大学病院の過失を認めた地裁判決」(医療安全推進ネットワーク/運営:日本医師会)
http://www.medsafe.net/contents/hanketsu/hanketsu_0_68.html

系列の「茨城医療センター」(茨城県 稲敷郡 阿見町)でも悪質な不正がありました。
・高度な医療の提供によって診療報酬の優遇が受けられる「特定機能病院」の施設基準の要件を満たしていなかったのに、それを承知で届け出を行った。
・2008年4月~2009年5月に合計1億円を超える医療費を不正に健康保険や患者に請求。
・同病院は保険医療機関としての指定が取り消しとなり、2012年12月1日から健康保険が使えなくなったが、原則として5年間は再指定が受けられないところ、翌2013年3月1日から再指定となった(患者の便宜を図るため?)

西新宿の本院のサイトには、医療の安全性に関して以下のページがあります。
●06病院案内 安全への取り組み
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/info/anzen.html
「これまで(2009年まで)の総括」という見出しに続く本文の書き出しが、「人間の行いには必ず間違いがあります.」と、いきなり開き直っています(苦笑)。文中には「…基本的な知識や技術の不足と不十分な体制により心臓手術の患者さんが4名死亡される事故が起こり…」と医療ミスを認めています。

こうした文章は病院の広報課などが広告代理店か広告制作会社へ発注し、そこに勤めるコピーライターか、外注のフリーランスのコピーライター(=私の職種)が書くのがほとんど、もしくは文章を書くのが好きな病院の広報担当者でしょうか。いずれにしても、こんな書き出しでは反省がベースにないようだと受け取られかねないのでは?

現在、同病院のサイトには、女性患者が手術中に重症の大ヤケドを負ったという情報は掲載されていません。レーザーメスの機械の不具合が原因なら責任は取りたくないから、原因が判明するまで公表しないということだと思いますが、新聞でもテレビでも報道されていますし、現実に事故は発生したわけですから、その事実だけでも知らせるべきだと思うんですよね。また、入院・通院中の患者たちに安心感を与え、外部にも印象を良くしたいなら、「医療機器は厳重に点検をしている」「医療スタッフ全員に、さらに注意を喚起した」とか付け加えればいいのにねぇ…。

茨城のほうは半年前に病院長が替わったようで、挨拶の文章に反省の文言も組み入れてあります。
●「病院長挨拶 平成28年5月20日」(東京医科大学茨城医療センター)
http://ksm.tokyo-med.ac.jp/Page/Syoukai/aisatsu

「東京医大病院」は新宿の西側エリアの人たちの利用も多いでしょうし、ランキング本に載っている診療科や“スーパードクター”と呼ばれる医師もいるらしいので、ブランド好き(?)な患者にも好まれるようです。
ここの医大と病院に関する評価は、私の“がん友”たちや周りの医療関係の方々に聞くと両極端に分かれるのですが、患者としては結局、信頼できる医療スタッフに出会えるかどうかなのだと思います。

「東京医科大学」の校是は「正義・友愛・奉仕」だそうですよ…。100周年で病院をリニューアルするのはいいとしても、大切なのは器より中身ですよね。スタッフの中でも日々、本当に頑張って努力を続けている人たちを正当に評価することと、つねに患者第一の精神を忘れないでほしいと思います。


[参考文献]

●レーザーの医学応用
http://jasosx.ils.uec.ac.jp/RLE/RLE/lsj1983/1983_sup/lsj1983_sup-6.pdf
(久保宇市/近畿大学 理工学部/The Laser Society of Japan)

●Medical Photonics No.11
産婦人科領域におけるレーザーの応用
http://www.medicalphotonics.jp/pdf/mp0011/0011_030.pdf
(深澤一雄/獨協医科大学 医学部 産科婦人科学講座 主任教授)

●北海道大学医療技術短期大学部紀要, 4: 117-127
医用レーザー外科診療における安全看護管理の検討 : レーザーメスによる気管内チューブ発火例と安全対策
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/37523/1/4_117-128.pdf
(佐藤, 洋子; 宮島, 直子; 佐野, 文男; 大沢, 修子; 宮川, 純子;
三浦, 哲夫; 絈野, 繁雄/1991-12)

●安全の手引き 第2章 物理実験の基本的注意 4 レーザー
http://www.sci.u-ryukyu.ac.jp/assets/files/ForStudents/anzen.pdf
(琉球大学 理学部/2006年改訂版)


※画像:レーザーメス(File:Sharplan 40C.jpg/作成者:Etan J. Tal/From Wikimedia Commons, the free media repository 出典:ウィキメディア・コモンズ)

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