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海老蔵さんの会見から:がん情報を得るときはネット上の無知な書き込みを無視! [医療・健康&がん関連]

点滴中.png歌舞伎の市川海老蔵さんが記者会見し、奥さんの麻央さん(33歳)が乳がん闘病中であることを公表しました。
以前から夫婦でよく人間ドックを受けていたそうですが、1年8か月前に麻央さんが乳がんに罹患していることが判明したとのこと。

テレビのニュース番組では「乳がんが発覚」と言ったアナウンサーがいましたが、「発覚」とは「隠していた罪や陰謀などが他人に知られること」という意味があります。がんが見つかることは悪事なんでしょうか? がん患者に失礼極まる表現!(怒)。
「都知事が公費を私的流用したことが発覚」というふうに使うのが正しいんですよ~。

よく健診を受けていたのに進行がんで見つかったということは、通常の検査では発見しにくいタイプのがんだったのかもしれません。乳がんの場合、乳房を挟んでX線撮影するマンモグラフィ検査を受ける人が多いのですが、乳腺が発達している人(生まれつきとか生理前、または妊娠中や授乳時期など)は全体が白っぽく映ってしまい、腫瘍が見つけづらいこともあるそうです。だから、エコー(超音波)検査も併用し、両方の観点でチェックするよう勧められます。

昨日の朝に「進行性がん」という報道が出て以来、一般のブログ等の見出しや本文の一部に「入院先は?」「余命は?」という言葉が躍っています。安易な発想でこういうことを書き散らすドシロート連中のせいで、「がん=死」というイメージが根強いままなんですよ。がんの恐怖を無責任に煽(あお)る連中には、私のがん細胞を移植してやりたいッ!(怒)。

中には、麻央さんのがんの種類もわからないうちから、日本人の罹患率が高いというだけで「胃がん」だの「大腸がん」だのと当てずっぽうを書いたものも見かけました。揚げ句の果てには「病名は進行性がんです!!」なんて書いてあるのも…。そんな病名はないよ。アタマ悪過ぎ!(激怒)。

ニュースなら何でもかんでも断片を適当にコピペしてブログ等にアップする連中は、アフィリエイト(成果報酬型広告)による小遣い稼ぎが目的。同情めいた文章を連ねていても表面だけで中身はありませんから、がん情報を得たいときは、そういうサイトを開かないよう気をつけましょう。読むだけ時間のムダ!

ネット検索すると結果として見出しや本文の一部がズラズラと出てきますが、情報を絞り込む目安としては、前述のような「入院先」「余命」「末期で手遅れ」「発覚」などの言葉が見えるサイトは無視! だいたい芸能人の入院先など知っても自分の闘病の参考にはならないことがほとんど。また、URLも確認し、「このサイトは信用できる」「このURLはバカ情報」などと覚えておくのも一手。やたらと気軽にクリックするとウイルス感染の危険性も高まりますしね。

「余命」なんてものは、どんなベテランの医師でも正確に見立てるのは難しいと言います(お医者さんたちに聞くと「亡くなる1か月ぐらい前なら、ほぼ確実にわかる」という意見が多い)。それに、発見時が進行がんでも長生きしている人はたくさんいるので、診断の時点で余命を考慮せねばならないほどの病状は、健診が普及している現代、そう多くはないそうです。

麻央さんは35歳以下なので「若年性乳がん」と言われるケースですが(私の胃がん罹患時も35歳でギリギリ若年性の範囲)、近年は10代・20代で乳がんに罹る人も増え、早期発見・早期治療によって結婚・出産を経て元気に働いている人たちもいます。どこかの新聞が「30代の乳がんは希(まれ)」と書いていましたが、希少がん患者ほど少ないわけではないはず。

一般的に乳がんで「進行性」という場合は、悪性腫瘍の長径が2㎝以上、あるいは脇のリンパ節などに転移しているステージⅡ以上。でも、脇のリンパ節に転移した状態で見つかる人は多く、長期生存の人も多いので、近年ではステージⅡも「早期」と言うお医者さんも増えているようですね。

一般の報道では、乳がんの分類は0期~Ⅳ期の5つと書いてありますが、実際には細かく8つに分けられます。
●0期、I期(1期)、Ⅱ期(2期):ⅡA・ⅡB、Ⅲ期(3期):ⅢA・ⅢB・ⅢC、Ⅳ期(4期)

私のがん本で紹介した“がん友”12人のうち、乳がんは6人。私も含めて7人の症例を書きましたが、うち5人がステージⅡ以上で発見されています。1人は再発後、骨に転移して現在はⅣ期の診断ですが、彼女は他者の100倍もの探究心をもって情報収集し、治療法や医師を選ぶ眼も確かだったため、自分に合う薬物の組み合わせが功を奏し、私よりずっと元気で健康そうな毎日を送っています。

Ⅳ期って末期だよね?と思った方は、以下もお読みくださいまし。
●がんの「ステージⅣ(4)」は「末期がん」なのか?
http://chie-relish.blog.so-net.ne.jp/2015-04-30

海老蔵さんは医師から「かなりスピードの速いもので、なかなか大変」と言われたと語っていました。こう聞くと「麻央さんは若いから進行が早いのよね」と断定する人もいますが、そう単純な話ではないんですよ。

今回の記者の質問内容を聞くと、乳がんの知識のある人はいないんだな、マスコミ業種の人たちにも、がん情報はまだまだ普及していないんだなと思いましたが、おそらく主治医の先生がおっしゃったのは、「乳がんの種類の中でも増殖スピードの速いタイプ」という意味でしょう。

がんは100人の患者がいれば100通りの病状と言われるように、乳がんも人それぞれ。基本的には固形がんなので「しこり」の見つかるケースが多いのですが、しこりを作らないタイプもあるんです。たとえば、スキルス(硬がん)は胃がんの一種として知られていますが、乳がんや大腸がんにもあります。
また、乳がんは女性ホルモンをエサにして増殖するものが多いのですが、そうではないタイプ(トリプルネガティブなど)もあります。

乳がんの分類は遺伝子検査などの発展もあり、私が治療した当時よりも細かくなる一方。その分、治療法もさらに選択肢が多くなっています。乳がんの国際的な「標準治療」としては、外科手術・ホルモン療法・化学療法(点滴の抗がん剤や分子標的薬)・放射線療法が一般的で、その患者の病状によって組み合わせを替えることもあります。

麻央さんは乳がんの発見時に手術ができず、抗がん剤治療で縮小を試みているという話ですが、腫瘍が大きいので抗がん剤で小さくしてから手術で摘出しようというのか(近年はよくある方法)、ほかの臓器にも転移があったので全身に作用する化学療法を選択したのか、そのあたりは定かではありませんが、乳房の腫瘍が縮小できたら手術を…という話らしいので、遠隔転移ではなさそうだとは思います(私の憶測に過ぎませんが)。

でも、1年8か月前からずっと入院して抗がん剤を投与し続けることはないと思うので(そんなことをしたら、とっくに亡くなっているはず)、入退院を繰り返しながら使う薬が体に合うかどうかをチェックしつつ、副作用が重くなると減薬したり休薬したりするなどして断続的に投与しているのかもしれません。あるいは、お金のある方々なので高額な免疫療法を併用しているかもしれませんし、場合によっては、まだ日本で承認されていない新薬をアメリカから輸入して試す人もいますね。

薬物治療の場合、病状や体質に合うと、お医者さんもビックリするほど腫瘍が縮小したり消失したりすることもあるようですが、がんは薬に慣れる性質もあるので、つまり、だんだん効かなくなって別の薬を試さねばならないときが来るのです(中には、非常に相性の好い薬と出合って、死ぬまで自分の体に適した量が服薬できる人もいますが)。

いずれにしても、海老蔵さんに取材する側は「完治できる希望はあるのか」という視点で探ろうとしている感じでしたが、乳がんは0期でもステージⅠでも「目に見えない微小ながんが全身に散らばっている」という前提に基づき、外科手術後でも抗がん剤の服用を勧められます。

私が治療した頃は、再発防止のために術後5年間の服薬が推奨されましたが、最近では10年に延長。乳がんは最初の治療後5年経っても10年過ぎても再発が多いからです。私は胃がんのときは5年を超えたら「ひとまず完治」とは言われましたが、乳がんは10年以上が過ぎてから、ようやく「完治」とは言われます。でも、安心した途端、再発が判明する人が多いのも現実。
だから、私は「完治」という言葉にこだわるのはやめて、全身に散らばっているであろう微小ながん細胞と「共生」していこうと割り切ったわけなんですよ~。

海老蔵さん一家が今、大変なのは、なかなか治療の区切りが見えないからだと思います。麻央さんは具合が悪くなれば入院し、最近では通院治療が可能となったという話でしたが、お子さんたちが4歳の女の子と3歳の男の子と幼いので、なるべく自宅にいてやりたいのでしょう。子育て中のお母さんなら当然の考えですよね。
しかし、抗がん剤によっては脱毛や吐き気の重い時期があると、病院にいるほうが安心。子どもたちに、つらいときの姿は見せたくないでしょうし。

海老蔵さんが病状は「深刻」と語ったことにより、記者の質問の方向性は女性週刊誌の好む“お涙頂戴”へ誘導しようという意図が見え見えでした。しばらくそういう論調の報道が続くんでしょうねぇ…。

がんに罹ったと知ったときは、そりゃショックを受けますよ。私も胃がんになったのが35歳のときで、乳がんのときは40代初めですが、そのつど、これで死ぬのかな~とは思いました。
でもね、そこでクヨクヨし過ぎて現実を直視せず、うずくまってヒザを抱えたままでいても、病気は勝手に治ってはくれません。放っておくと病状が進む一方となることも多いので、「がんになった、どうしよう?(号泣)」の次は、「がんになったから、私はどうすべきか?」を考え、自分のためにアレコレ調べに調べ尽くして、できるだけ後悔のないように治療法やお医者さん、病院を自分の意志で選ぶことが大切なのです。

乳がんの患者や体験者ではない皆さま、男性にも少数ですが乳がんで闘病している“がん友”はいるんですよ。性別には関係なく基本的な知識を仕入れておきましょう。

●乳がん 検査・診断
http://ganjoho.jp/public/cancer/breast/diagnosis.html
(国立がん研究センター がん対策情報センター がん情報サービス)

●冊子『乳がん 受診から診断、治療、経過観察への流れ』
http://ganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000ul0q-att/144.pdf
※PDFファイルが開きます。全部で32ページ分あり。
(国立がん研究センター がん対策情報センター がん情報サービス)

上記の情報は、あくまでもエビデンス(科学的根拠)をベースとする「標準治療」に関する解説です。私の治療も温存手術~再発防止が目的の放射線照射+抗ホルモン剤というスタンダードな方法でしたが、進行がんの場合、病態が重くなるほど標準治療ではカバーできなくなることもあります。

そういうときには書籍やネットでの情報収集が、さらに必要となりますが、乳がんはがんの中でも特に治療法の選択肢が多いので、迷う人も多いと思います。私ががんの本を書いたときには、それも意識して標準治療以外の情報も載せました(アヤシイ治療法や健康食品、サプリ等は除いて)。

同時に、セカンドオピニオンの重要性や求め方のノウハウ、信頼に足ると思われるWebサイト情報などにもページを割いたのですが、最近は一見、ニュースサイト風のものが激増し、医療・健康情報も無責任でいい加減な内容が、とんでもなく多くなっています。完全に誤解を招くものとか詐欺のような情報は法的に取り締まる手立てがあればいいのに!

学校や会社、職業なら「選択を間違えた!」と思ったら、転校したり転職したりして、その先で頑張れば、また自分の人生を明るくすることもできますよね。
がんだけではないのですが、病気の場合は最初の治療法の選択を誤ると命を縮めることも多いので、慎重にならざるを得ないし、かと言って時間を掛け過ぎると病気が進行することもあるしで、不安のまま長く過ごすと精神状態にも悪影響を及ぼします(がん患者で鬱状態になる人が多いのもそのせい)。

そんなこんなで闘病は大変なんですよ~。だから、闘病中の人のことは相手から相談されない限り、黙って見守って心の中で声援を送るのが一番。メールや電話も相手が望まないなら放っておけばいいのです。

私の場合、周りの人たちとの付き合いが励みや楽しみだったので、親しい人たちには入院前に「がん闘病するよ~」と知らせて入院先にノートパソコンを持ち込み、仕事を続けながらメールの送受信も楽しみ、いろんな方々に見舞っていただきましたが、私とは正反対に「頑張って!」という一言を掛けられることすら負担に思う人もいるんですよね。

応援メールを送る側は1通のつもりでも、受け取る側は似た内容の頑張れメールが100通届いているかもしれません。律儀な患者ほど「返信できなくて申し訳ない」と感じ、心理的なプレッシャーともなるでしょう。
また、がんに効くという触れ込みの健康食品や飲料を次から次へと贈る人もいますが、がんの種類や患者の体質などによっては迷惑となる場合もありますよね。

海老蔵さんも「取材だからって自宅まで押し掛けられたり入院先を探し回られたりすると、ストレスで病状が悪化しますよ。責任を取ってくれるんですかッ!?」と激怒していいと思うんですが、そんなことはできないのが人気商売の哀しいところ…。
一般の私たちは闘病中に迷惑な人がいたら怒っていいんですよ! 思いやりのない言動をする人がいたら絶縁していいとも思います。
当たり前のことですが、心身を回復へと向かわせるためには、自分を取り巻くいろんなストレスをできるだけ排除することを最優先に!

※イラスト:(C)みふねたかし(いらすとや)

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